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愛すべきB級映画~『マッドボンバー』~

かつて浅草六区に繰り出すと、映画館がひしめき合い、大小名画座では必ずと言っていいほど観たい映画がかかっていた。正月などは家に居るより名画座で過ごす時間が長かったのだが、いまやその名画座も浅草から姿を消してしまった。日本全国を見渡しても名画座が激減。その館数、わずかひと握り。実に寂しい限りである。

 

名画座で映画鑑賞する楽しさのひとつは、あちらこちらで上映作品がずらりと並ぶ中、観たい作品のスケジュールを調整して映画館に足を運ぶことだ。次の上映時間は午後2時からだ、来週にはあの映画が上映される、などという映画を「待つ」という感覚。パッケージソフトや配信での映画鑑賞も素晴らしいが、「気に入った作品を選び、待ちながら楽しむ」という感覚は放送には敵わないと思う。ずらりと揃う放送ラインナップが、浅草六区に並ぶ映画の看板や告知を思い起こさせもする

 

その中でも愛おしき名画座感覚をもっとも醸し出しているのが、イマジカBSなのではなかろうか。かつて名画座では上映作品に共通するテーマ性を、館主やスタッフが知恵を絞りながら打ち出していたが、イマジカBSの放送ラインナップはどこかあの感覚に近く、思わずくすりとほほ笑んでしまうである。

ホームページでのラインナップを見てみると、やはり浅草六区だ。新旧タイトルを取り揃えながら、映画通なら名画座の香りに溺れるに違いない。今回紹介するマッドボンバー(73)など、ラインナップを見た瞬間に思わず小躍りしてしまった作品である。

 

溺愛する高校生の娘の命を麻薬で奪われ、そのショックで精神のバランスを失い、仇敵は社会だ、世間に復讐してやる、と爆弾魔と化して歪んだ怒りをぶつける男ドーン。爆弾魔追撃のためなら荒っぽい手段も辞さない、ロサンゼルス市警の一匹狼刑事ミネリ。物語はこのふたりの行動を軸に展開するわけだが、病院での爆破事件をきっかけに登場するのがレイプ魔の性的異常者フロマリィだ。

 

一見バラバラにみえる爆弾事件と性犯罪。嗅ぎ出される接点。探偵小説的にひとひねりした面白さがここから加味されるのだが、この3人がどのように絡み合っていくのかは言わぬが花。ちなみに本作は『THE POLICE CONNECTION』という別タイトルでも知られており(1)、「コネクション=物事をうまく運ぶのに役に立つ親しい関係」が映画の旨味に繋がっているとだけ申しておこう。

 

(1) 公開された州によってふたつのタイトルが使い分けられた。公開時にはいずれも過激場面がカットされている。

 

ドーンを演じるのはチャック・コナーズ。コナーズと言えばやはりTV西部劇『ライフルマン』(58~63/2)となるが、シーズン1撮影後のオフに出演した『大いなる西部』(58)に魅せた粗野なカウボーイが当り役と言ってもよかろう。190cmを超す長身。特異なマスク。いちど観たら忘れられない俳優であり、アクション西部劇『烙印の狼』(65)『七人の特命隊』(68)、ハリー・ハリソンのSF小説の映画化『ソイレント・グリーン』(73)、ジョン・フランケンハイマー監督のコミカルなライト・アクション『殺し屋ハリー/華麗なる挑戦』(74)等々お薦めの作品も数多い。

 

(2) 6シーズン続いた人気TV西部劇。新人時代のリチャード・ドナー、サム・ペキンパー、アーサー・ヒラー、テッド・ポスト、ラモント・ジョンソンらが演出を手掛けている。

 

当時、コナーズのフィルモグラフィからは予想できなかったキャラクターではあるが、きっちり着こなしたスーツ姿、銀縁メガネの冷たき光沢を活かして、偏執狂的な爆弾魔を不気味な迫力で演じることに成功し、『マッドボンバー』の面白さを決定づけた。自分が狂っているという自覚がなく、ダイナマイトが入った紙袋を抱えて目的地に向かい、平然とドカンとやらかす。その姿は映画史の中でも忘れ難いもののひとつだ。悪や暴力と闘いつつ真摯に生きていく姿を、強い父子の絆とともに描いた『ライフルマン』とは正反対。しかし、ウィンチェスター・モデル1892をダイナマイトに変えた『ライフルマン』の主人公ルーカス・マケインの裏バージョンとみるならば、それはそれでとても面白いが。

 

対する鬼刑事ミネリに扮するのがヴィンセント・エドワーズ。いまさら申すまでもなく、エドワーズと言えばTV『ベン・ケーシー』(61~66)の青年脳外科医ベン・ケーシーの姿がすぐさま浮かぶ。犯罪サスペンスの名作『現金に体を張れ』(56)で注目され、冷徹な殺し屋に扮した『契約殺人』(58)、香港の暗黒街を舞台にしたアクション5番街を手術しろ!(59/3)の好演が『ベン・ケーシー』の主演に繋がりスタアの仲間入りを果たしたわけだが、『勝利者』(63)『コマンド戦略』(67)『マッドボンバー』以降の出演作品ではいまひとつパッとしないのはとても残念なことだ。

 

(3)原題はTHE SCAVENGER(街路清掃人、ハゲタカやジャッカルなどの腐肉食動物の意)。日本公開は63年。『ベン・ケーシー』人気のエドワーズ主演のため、この邦題となった。

 

ネイティブ・アメリカンの血が流れている設定のミネリ刑事は、「ジェロニモ」という仇名でも呼ばれている。ジェロニモは対白人抵抗戦である「アパッチ戦争」に身を投じたお馴染みの勇猛戦士だが、アーノルド・レイヴィン製作・監督・脚本の西部劇『酋長ジェロニモ』(61)ではコナーズがジェロニモを好演して注目された。『マッドボンバー』ではジェロニモがジェロニモに追われるわけで、映画ファンを意識した小粋なお遊びとなっている。

 

そしてレイプ魔フロマリィに扮するのが、コナーズと並んで特異なマスクの持ち主であるネヴィル・ブランドだ。『マッドボンバー』以前の作品では刑務所の暴動を描いたドン・シーゲル監督による骨太ドラマ『第十一号監房の暴動』(54/助監督サム・ペキンパー)、内乱中のベトナムを舞台にした『大脱走』(63)の脚本家ジェームズ・クラヴェル製作・監督・脚本による戦時ドラマ『野獣部隊』(59)、TV『アンタッチャブル』(59~63)の劇場版でありアル・カポネに扮した『どてっ腹に穴をあけろ』(59)等が印象に残る。『悪魔のいけにえ』(74)のトビー・フーパーが再び実話を基に監督した、狂人ホラー『悪魔の沼』(76)はブランドの代表作だ。

 

悪役専門の役者といえばブランドの名が真っ先に挙がるが、デビュー以来徹底して悪役一筋という姿勢も気持ちがいい。『マッドボンバー』の異様さも群を抜いており、偏執狂的なコナーズひとりだけでも不気味で怖いというのに、狂人ブランドが加わったことで狂気の厚みが増したのは言うまでもない。そのブランドがエドワーズと初共演したのが西部劇『ならず者たち』(69)で、堅気となった無法者一家の長男(エドワーズ)の決闘に力を貸す保安官を演じており、機会があればその貴重な正義漢ぶりを楽しまれたい。

 

ストーリーを練る時、いつも三角形を意識して登場人物を設定してきた。これまでは三角形の一点がモンスターだったが、今回は現代のモンスターにした。しかもそれがチャックとネヴィルなんだよ。誰もが震えるに決まっているじゃないか。(バート・I・ゴードン)

 

監督はバート・I・ゴードン。『戦慄!プルトニウム人間』(57)と続編『巨人獣』(58)、『世界終末の序曲』(57)『吸血原子蜘蛛』(58)『生きていた人形』(58/aka.人間人形の逆襲)といった巨人や巨大生物の脅威を描いた50年代SF作品によって、いまなお「ミスター・ビッグ(Mister B.I.G.)」の愛称で親しまれている映像作家である。これらの監督作(兼製作・原案・脚本)では、奥方であったフローラ・M・ゴードンが特殊効果を担当。『マッドボンバー』の終幕で披露される特殊効果など、そのインパクトは強烈極まりない。60年代に突入すると『空飛ぶ生首』(60)『海賊少年』(60)『陰謀の屋敷』(66)といった作品に愛娘スーザン・ゴードン(4)を出演させ、ファミリー・ムービー感覚の怪奇映画を製作しているあたりが微笑ましいではないか。

 

(4)コルネット奏者レッド・ニコルズの実話を映画化した『5つの銅貨』(59)で、ダニー・ケイ(ニコルズ)の幼い娘ドロシーを演じた。ケイとルイ・アームストロング、そしてスーザンが、3つの曲(「ラグタイムの子守唄」「グッドナイト・スリープ・タイト」「ファイブ・ペニーズ」)を3人で同時に歌うシーンが観せ場のひとつで、多くの場面で大人の役者を喰う存在感をみせていた。

 

大手スタジオの後ろ盾を得ずに、低予算の怪奇映画を賢く製作する映像作家であるが、次第にゴードンならではの存在感を発揮し、『ウィッチング』(72/未/THE WITCHING /aka.NECROMANCY)ではなんとオーソン・ウェルズを主演に迎えて悪魔崇拝を材にしたオカルト映画を撮り上げてしまった。共演に『ヘルハウス』(73)前夜のパメラ・フランクリン、TV『命がけの青春/ザ・ルーキーズ』(72~76)で注目されたばかりのマイケル・オントキーン、『ビッグ・ウェンズデー』(77)のリー・パーセルという通好みの顔が揃っており、いまやカルト化した怪奇サスペンスだ。昨年7月に米国盤が登場しているので、ご興味ある方は購入されたい(世界限定1000枚)。

 

『マッドボンバー』『ウィッチング』に続いて撮り上げた作品であるが、ゴードン・フィルモグラフィの中でも異色の存在となっている。これまでの空想上の怪物(モンスター)に対して現実世界の怪物を登場させ、しかも暴力による社会清掃というテーマを含ませた点が注目されよう(5)。娘を溺愛するコナーズの姿に、愛娘スーザンを自分の怪奇映画に出し続けたゴードンの姿がちらりとダブるのも興味深い。

 

(5) 『マッドボンバー』が製作された前年、法を無視して悪人に裁きを下す自警団が登場する社会派サスペンス『黒い警察』(71)が公開された。『ダーティハリー2(73)のプロットにも影響を与えたといわれるが、『マッドボンバー』製作において影響を受けたことをゴードンは認めている。

 

なにしろ出演者がチャックにヴィンスにネヴィルだからね。彼らに出演料を払うと、悲しいことに製作費が僅かしか残らないんだ。だから今回は撮影監督を雇えず、自分でカメラを回すことにしたんだよ。スタジオでのセット撮影は合成が絡むシーンだけに絞り、カメラを担いで外に出て行く毎日だった。(ゴードン)

 

70年代初頭に製作された多くの映画同様に、『マッドボンバー』もロケーション主体の映画となっている。ショットの大半が撮影場所にある既存の灯りや太陽光を使うアベイラブルライト手法で撮られているが、粒状性豊かなデイライトシーン、増感現像によって粗めの画調となる室内シーンやナイトシーンの魅力は観どころのひとつだ。

 

鮮明・高精細映像とは無縁ではあるが、時代の臭気が漂うフィルムルックな画調を堪能して頂きたい。この映像を見ていると、華やかしき頃の浅草六区の街並みとリンクする部分があり、ざらりとした確かな触感の記憶が蘇えってくる瞬間であった。必見。

 

いつもとても大切なことは物語にサスペンスがあるかどうか、ということだと思う。何が観客を席に縛りつけておく要素か。これはホラーだろうと真面目なドラマであろうと、何にでも言えることだが、それは解決が困難なトラブルであり、観客が登場人物を通じて興味を持つものでなければならない。観客にとってはトラブルが早く起きるほど、また大きいほど面白いんだ。(中略)映画のそれぞれのシーンがトラブル解決に関係していなくてはいけない。これが守れないとサスペンスは弱さとなって出てしまうんだ。(ゴードン)

 


マッドボンバー
The Mad Bomber

1973年 アメリカ
監督:バート・I・ゴードン
出演:ヴィンセント・エドワーズ、チャック・コナーズ、ネヴィル・ブランドほか

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