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86歳にしてなお新境地……イーストウッド『ハドソン川の奇跡』

仮メインUSP-01608rv3今世紀に入ってからの監督イーストウッドには驚かされてばかりだ。とくに2004年の『ミスティック・リバー』でショーン・ペンにアカデミー主演男優賞をもたらし、時を待たずして、いや、正確には『ミスティック~』の編集中に手をつけ始めたという2005年の『ミリオンダラー・ベイビー』で自身が作品賞・監督賞を勝ち取った頃からの作品群が凄まじい。つねに家族、正義、命といったものへの価値観を揺さぶってくるからだ。もちろんアカデミー賞4賞ほか数々の栄誉に輝き、ここ日本でリメイクまでされた『許されざる者』(1992)も鮮烈だったが、その頃と比較しても、創作のペースもパワーも落ちていないことがまた驚異なのだ。

 

86歳を迎えた本年、また新しい作品を世に放つ。『J・エドガー』、『ジャージー・ボーイズ』、『アメリカン・スナイパー』に続き、実在の男の物語。新作『ハドソン川の奇跡』でイーストウッドがスポットライトを当てたのは、熟練パイロットのチェスリー・サレンバーガー。通称“サリー”だ。

 

2009年1月15日、真冬のニューヨークの空。離陸直後、全エンジン停止という前代未聞のトラブルに遭いながらも、彼は瞬時の判断で航空機をハドソン川へ不時着させて乗客乗員155名全員の命を救った。しかし、映画の序盤から展開するのは、周囲から「英雄」と呼ばれたサリー機長を待ちかまる苦悩の日々だ。事故を検証するNTSB(国家安全運輸委員会)からの追及が次第に厳しくなり、サリーは、そして彼を信じていた観客たちも揺さぶられていくことになる。至近空港への着陸は不可能だったのか? 機体破損の衝撃をも伴う着水は、ただの危険行為ではないか? 本当に彼は英雄なのか?

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危機的状況で迫られる「決断」の重さは、米軍にむけ爆弾を手にした子供を射殺せざるをえなかった『アメリカン・スナイパー』の主人公クリス・カイルにも共通する。イラク戦争で活躍したこの名狙撃手もまた英雄と称賛される一方、母国で待っていたのは家族との隔絶だ。はたして今作のサリー機長は、あの時の決断を「過ち」として背負うことになってしまうのだろうか。

 

ニューヨークの空の事故。当事者にかぎらずとも無関心ではいられない出来事だ。プロダクション・ノートによると、屋外シーンは主に実際のニューヨーク市内でロケ撮影されたのだが、市民からはとても好意的に迎えたようだ。映画本編の中でも、この出来事がいかに多くの人が見守った事件だったのかがよく分かるシーンがいくつもある。そしてクライマックスとともに伝わってくるのは、この航空機事故についてイーストウッドが選択した立ち位置だ。複雑なテーマに対して「あなたはどう思う?」と観客に問いかけるような近年の監督作とは大きく異なり、揺るぎない見解が実にストレートに提示される。「あのイーストウッドがこう来るのか!」と今回もまた驚かされつつ、86歳にして安定とは無縁の挑戦的なスタンスに、イーストウッド、やはりケタ違いの人間だと、唸らされる。

 

主演はトム・ハンクス。サリー機長の外見だけでなく内面を、とくに緊急事態での圧倒的な思考速度の再現に努めたという。パイロットの衣装を着れば誰の役か一目瞭然のようで、ロケ中には「ハドソン川の奇跡の人!」や「サリー!」とよく声をかけられたと語っている。また、事故当時の副操縦士で、サリーの決断を誰よりも近くで目撃した証言者でもあるジェフ・スカイルズをアーロン・エッカートが演じる。ユーモア溢れる性格のジェフが本作で果たす役割にも注目だ。

 

そして、小さな驚きも一つ。イーストウッドの顔がほんの少し映る、嬉しいシーンがある。2009年の1月……監督はもちろん、あの映画を作っていた。

 

 

『ハドソン川の奇跡』
9月24日(土)丸の内ピカデリー 新宿ピカデリー他全国ロードショー!
ワーナー・ブラザース映画配給


ハドソン川の奇跡
Sully

2016年 アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート

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