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【昭和の洋画ヒーロー20】エスケープ・アーティストの至芸を愉しむ。〜『大脱走』4Kレストア版〜

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わがオールタイム映画ベストワンである。さすがに63年のロードショーは観ていないが、12歳の夏に観たリバイバル上映以来、名画座、アナログ放送、VHS、レーザーディスク、DVD、ハイビジョン放送、ブルーレイと付き合いは46年間に及ぶ。いまでは年間800本以上の映画を観る身となったが、命尽きるまで最愛の映画として胸に残り続けるであろう。

LD『大脱走』米・MGM版 1991年発売。アスペクト2.69:1収録。 スタージェスがフレーミングを決定する前のプリントを使用。

LD『大脱走』米・MGM版
1991年発売。アスペクト2.69:1収録。
スタージェスがフレーミングを決定する前のプリントを使用。

LD『大脱走』米・クライテリオン版 1991年発売。アスペクト2.35:1収録。 スタージェスがテレシネ監修・最終確認をしたもの。

LD『大脱走』米・クライテリオン版
1991年発売。アスペクト2.35:1収録。
スタージェスがテレシネ監修・最終確認をしたもの。

イマジカBSでは10月に『イマジカBS開局20周年企画 昭和の洋画ヒーロー20』を特集するが、トップを飾って放送されるのがジョン・スタージェス監督作『大脱走』(63)である。ちなみにこの特集、「昭和の洋画ヒーロー」として厳選されているのが俳優ではなく、映画キャラクターというのが面白い。たとえば不良青年ベルナルド(『ウエスト・サイド物語』)であり、殺し屋ジェフ・コステロ(『サムライ』)、陪審員8番(『十二人の怒れる男』)という具合だ。

 

そして『大脱走』ではThe Cooler King(独房王)こと、バージル・ヒルツが昭和ヒーローの冠に輝いている。本作ではそれぞれに一芸に秀でた個性豊かなエスケープ・アーティストがチームプレイを繰り広げるが、ヒルツは病的とも言える脱走常習犯の一匹狼的存在だ。彼はドイツ軍の規律に反抗し、幾度も独房(クーラー)に入れられ、いつも元気に仲間のところへ戻ってくる。エスケープ・アーティストに扮した俳優陣の豪華さは、のちの活躍を振り返ると目を瞠るものがあるが、やはり最大の儲け役はヒルツを演じたスティーヴ・マックイーンと言ってよかろう。

バージル・ヒルツについてもう少し詳しく記しておこう。アメリカ合衆国陸軍航空軍・第8空軍大尉(イギリス空軍では中尉と同階級)。脱走計画時、年齢25歳。化学工学科の学生時に召集。当時は学費をオートバイレースで稼いでいたという。1942年、ドイツ占領地域への昼間爆撃を敢行中、自機B-17爆撃機が撃墜され捕虜となる(※1)。個人主義を貫き、横柄で疲れを知らない。舞台となるスタラグ・ルフト北捕虜収容所に送られるまで17回の脱走を試み、大脱走までに21回を数えることとなる。フォン・ルーゲル所長曰く「Close to Insanity(狂気に近い)」。

 

ヒルツのキャラクター設定では、実在した3人の兵士たちが参考にされている。ドーリットル空襲(日本本土に対する初めての空襲)の指揮官でもあったデイヴ・ジョーンズ少佐、アメリカ戦略情報局のエージェントであったジェリー・サージ大佐(戦闘服を着用していなかった)、そして捕虜収容所から7度の脱走を試みたイギリス空軍大尉エリック・フォスターである。

 

(※1) – 第8空軍がドイツ本国に侵入して爆撃したのは1943年に入ってから。そのため劇中でヒルツは「戦争が終わるまでにベルリンを見たい」とルーゲル所長に語っている。

 

「私は『大脱走』でスタアになった」(マックイーン/65年来日時の会見)

 

「マックイーンのような俳優は、共演すると、素晴らしく閃くような直観性を持ちこんでくれる。彼はいつでも爆発しそうな俳優で、まるで動物のようだ。つまり生まれつきの暴力性を内に秘めている。過去の偉大な映画スタアの大多数はこうだった」(リチャード・アッテンボロー)

 

「キャプテン・ヒルツとマックイーンの境界線がなくなるほどの適役。ちょっと粗野だが感受性の強いジェームス・ディーンの後継者だ」(米SHOW MAGAZINE誌/63年)

 

いまさら申すまでもなく、『大脱走』はベルリン南東160km のザーガンにあったドイツ空軍の管理する連合軍航空兵捕虜収容所、スタラグ・ルフトⅢ(第三航空兵捕虜収容所)から捕虜が集団脱走した史実を映画化したものである。時は第二次大戦下の44年3月24日、マックイーンが14歳の誕生日を収容された感化院で迎えた深夜のことであった。

 

この脱走計画に加わっていたポール・ブルックヒルによって著された原作(※2)にひと目惚れし、映画化を熱望していたのが偉大なる娯楽派監督ジョン・スタージェスだ。サスペンス、アクション、ユーモアの要素を丹念に織り込みながら、脱走計画、実行、その後の運命の行方を描いていく。まさに教本的な三幕のドラマ。ここに男臭きオールスタアを流し込んだアンサンブル映画であり、娯楽映画として一分の隙もない。

原作本。筑摩書房刊『ノンフィクション全集』初版。

原作本。筑摩書房刊『ノンフィクション全集』初版。

闘い、誇り、孤独、友情、憎しみと、多彩な要素が重層的に混交し、誰もが満点の面構えで好演する。加えて適所にスタージェスならではの、西部劇的詩情を滲ませる緩急自在な演出。「いままでになかった壮大な群衆娯楽活劇を作る」という意気込みのもと、スタージェスならではの手さばきが冴えまくり、映像作家としてのひとつの到達点を迎えた作品である。

 

(※2) – ブルックヒルの原作は1951年にNBC「テレビジョン・プレイハウス」でドラマ化されている。フィルコ社とグッドイヤー社が隔週交互に1社提供する単発ドラマ番組で、放送タイトルは映画同様『The Great Escape』。出演はエヴェレット・スローン、E・G・マーシャル、ロッド・スタイガー。

 

「最終的に『大脱走』には6人の脚本家が参加した。そして11のバージョンが出来上がった。脚本家はすべて即興的な役者だと思う。彼らは書くときに紙の上で演技をしているんだ」(ジョン・スタージェス)

 

実話の映画化ながら、映画の構成はいたってシンプルだ。収容所と地下(トンネル)が軸となる密室劇。これが前半。そして映画が劇的に動く後半は、脱走と追跡に的を絞りこんだ屋外ロケーションで魅せ切ることとなる。この対極にある劇空間をストーリーテリングに生かしながら、エスケープ・アーティストたちの知恵と心意気、成功と挫折を描き込んでいくのだ。

 

まずはエスケープ・アーティストのキャラクター設定が、「脱走」というキーワードで紹介されていく開幕からの23分間に舌鼓を打たれたい。男衆のたたずまいは、一貫してアイライン・アングルからのミディアムショット、ロングショットの組み合わせの中に彫刻され、広大なシネスコ空間で最上の役者絵の序章を飾ることとなる。次第に優れたカッティング(編集)の呼吸の虜にもなろうが、そのリズムとテンポ流れの中で注視してもらいたいのは捕虜収容所の空気感だ。

 

アメリカ本土では時代の空気が得られない。そう決断した製作陣はドイツに渡り、スタジオ&ロケーション撮影を敢行する。多くの助言を得てバイエルン郊外に建設した巨大捕虜収容所セットは、スタラグ・ルフトⅢのたたずまいそのものと称されるほど見事なものであった。そこから立ち上がる戦時のムード。映画はその空気感を切り撮ることに成功しており、ハイビジョン放送の恩恵によって家庭劇場は可触的な時代の空気に包まれよう。

 

「内容にぴったりのロケーション場所を見ると、確かさの感触というものを感じる。クランクインしてからも、なにが美術や装飾を本物らしく見せているかがわかるんだ」(スタージェス)

 

こうした可触的な空気感の再現は、4Kデジタルレストアの恩恵によるものが大きい。今回の『大脱走』は4Kデジタルレストア・マスターを使用したフルハイビジョン放送だが、20世紀フォックスによるレストア作業には苦心の跡が窺える。63年公開時のオリジナル・パナビジョン・アナモフィックネガは消失。2001年にデジタル・リマスター版が限定公開されているが、これは現存する最良の35mmインターポジを2K解像度でスキャン、修復したもの。2002年にはそのレストアマスターから製作40周年記念DVD版が制作されている。2013年には製作50周年を記念したブルーレイとDVDが登場。ここでは新たに35mmインターポジを4K解像度でスキャン、デジタルレストアが施されている。

 

多くの時間が費やされたのは、01年当時の技術で対応できなかった傷痕、塵、現像液のムラによるフリッカーなどの除去・修復。そして続くグレーディング作業では、映画製作当時のデラックス現像所資料に則った色調調整が施されている。本作はオプチカル処理による映像表現を多用する作品ゆえ(特に前半)、オーバーラップ・ショットやブローアップ(引き延ばし)ショットにみる映像品質が後退する点をご容赦願いたい。

 

今回の特集では『大脱走』の他、『ウエスト・サイド物語』(61/監督ロバート・ワイズ)も4Kデジタルレストア・マスターを使用した放送となる。いずれも共通するのは、撮影監督がダニエル・L・ファップであること。『楡の木蔭の欲』(58/監督デルバート・マン)『5つの銅貨』(59/監督メルヴィル・シェイヴルソン) 『ワン、ツー、スリー/ラブハント作戦』(61/監督ビリー・ワイルダー)『不沈のモリー・ブラウン』(64/監督チャールズ・ウォルターズ)『北極の基地/潜航大作戦』(68/監督スタージェス)『宇宙からの脱出』(69/同)でアカデミー賞にノミネートされ、『ウエスト・サイド物語』でオスカーに輝いている。今回の特集放送を機に、撮影の至芸を見比べてみるのも一興であろう。

 

「私はセットのコントロールが好きなんだ。セットの構成というのは、すべて映画の動作のために設計されている。映画のセットのようにスムースに繋がって出来ているロケ地など見たことがない」(ダニエル・L・ファップ/『ウエスト・サイド物語』の撮影中のインタビュー)

 

人物紹介を兼ねたプロローグに23分間を費やした後、映画が本格的に始動するのは「ビッグX」ことロジャー・バートレット少佐が連行・収容されてからだ。捕虜収容所に集まりしエスケープ・アーティストたちの意思を統一。トンネル掘りという脱走モノの常道を踏まえながら、抜群のチームワークで大きな目的へと突き進んでいく。第二幕のミッド・ポイントとなるトンネル「トム」発覚後、我を捨ててチームプレイに加わっていく”昭和ヒーロー”ヒルツの姿も頼もしい。

 

バートレットの登場から脱走当夜まで、およそ90分。途中で数々の危機に直面しながら、それを乗り切るエスケープ・アーティストたちの知恵と勇気が試される。その抑圧された一挙手一投足は、まさに高密度の脱走劇に相応しい。つまりは、土を掘り出す手、警戒を怠らぬ目の動き、トンネル発覚の絶体絶命の危機における筋肉の硬直、あるいは独房の壁に野球ボールをぶつけるといった動作が、戦車の衝突や絨毯爆撃と同じくらいスリリングな緊張感を生み出せることを実証したのだ。

 

そして4Kデジタルレストアだからこそ、より見えてくるものがある。映像スタイルは奇をてらわず、カメラワークはストイックなまでに質実剛健。編集は簡潔、機能的である。ディープフォーカスで切り撮られたシネスコ構図のバランスの比重の置き方は申し分なく、静止画的な横長背景に人物の重さを中和させ、辺縁視力に相当する端の部分に至るまで全体のバランスを保っている。

 

現実世界での知覚空間(人間の視野角)と巧妙にリンクするシネマスコープ構図ながら、客観的にドラマを提示(※3)。詳細で複雑で濃密で、連続性が首尾一貫しているというのに、想像力に長けた観客に対しては画面への注意をより促してみせるのだ。

 

(※3) – 顔や目を動かさずに人間が視認できる範囲は、左右の視野角約40度、上下の視野角15~20度とされる。それはシネマスコープの映像(縦横画角比率は2.35:1)と見事にリンクする。『大脱走』はパナビジョン・アナモフィック撮影作品だが、多くのショットで40mmアナモフィック・レンズを使用。40mmアナモレンズで撮られたシネマスコープ映像は、人間の知覚(視覚)をもっとも表現できるとされている。放送画面の左右両端が視野角に無理なく収めて鑑賞することで、映像設計の理解度がより高まるはずだ。この場合、テレビやスクリーン画面高(シネスコ映像の高さではない)の2.4倍の位置を目安にすればよい。かつての映画館に在った指定席の位置は、こうした人間工学上の計算に基づいている。

 

「『大脱走』に限らず、俳優のアップはなるべく倹約して、必要な時だけにしか使わないようにしている。私の感覚ではアップを絶えず使うと、大きな感情のうねりがある時にもう使えるものが残っていないと思うからだ。人物のフルサイズをみせる時は、上下よりも両脇に空間をあけて見せるようにする。シネマスコープをとても気に入っているんだ」(スタージェス)

 

そしていよいよ第三幕。エスケープ・アーティスト一丸となっての大脱走、その映画的陶酔の爆弾の導火線に火がつけられる。ここでスタージェスは、西部劇全盛の時代を支えた豊富で印象的なアクション(動き)の技法を駆使している。たとえば静止画的な(動きのない)広大な背景に、小さいがダイナミックな動的イメージを配列し、映画の躍動と緊張を創出しているのがわかる。

 

それはバイクを駆るヒルツの疾走場面はもちろんのこと、駅ホームでのエリック・アシュレイ=ピット然り、検問所から逃走するバートレット然り、空からの脱出に望みをかけるアンソニー・ヘンドレイ然りである。しかも興味深いのは、エスケープ・アーティストたちを動きの渦中で克己な一兵士として存在させながら、さまざまな幕場をテンポ良く結合する手段として振付けしていることだ。それゆえにぐんぐんと第三幕は盛り上がり、このカメラ、このフィルム編集が娯楽活劇の歌を歌うのである。

 

編集は『荒野の七人』(60)をはじめとするスタージェス作品、『ガントレット』(77)『ファイヤー・フォックス』(82)と等のクリント・イーストウッド作品で知られるフェリス・ウェブスターである。『花嫁の父』(50/監督ヴィンセント・ミネリ)『禁断の惑星』(56/フレッド・マクロード・ウィルコックス)『熱いトタン屋根の猫』(58/リチャード・ブルックス)等の職能的手腕も評価が高い。『暴力脱獄』(55/ブルックス)『影なき狙撃者』(63/ジョン・フランケンハイマー)、そして『大脱走』でオスカー・ノミネート。

 

残念ながら『西部開拓史』(62/ジョン・フォード、ヘンリー・ハサウェイ、ジョージ・マーシャル共同監督)に苦杯を喫した『大脱走』だが、堂々たるオスカー級の出来映えである。放送画質向上に伴う、編集リズムやテンポの再確認と新発見。これもまた4Kデジタルレストア版鑑賞の醍醐味のひとつと思われたい。

 

上映時間172分。時間を忘れさせる映画演出に磨きをかけているのが、エルマー・バーンスタインの劇伴であろう。開幕の胸高鳴るテーマ曲は、映画全体のムードや精神を示す序曲的な役割を担う。映像と劇伴のシンクロナイゼーション。台詞の背後まで厳密に楽曲が刻み込まれていくような、頻度の高い映画音楽の在り方。緊迫した状況において、時に対位法をなす楽曲を提示する。戦時を真っ向から突き抜いて後味の悪さを一滴も残さない理由のひとつは、バーンスタインによる劇伴の眩しさが胸に沁みるからであろう。さてもこの名画クラシック、必見。必聴。

サウンドトラック『大脱走』 1963年録音レストア版 CD(左) 米・Varèse Sarabande 完全版35トラック/90分20秒+63年リリース版13曲/32:34秒 3枚組2枚組 CD(右) 米・Intarda 完全版42トラック/90分20秒(時間は同上) LP(後) 米・Doxy Cinematic 完全版42トラック/90分20秒 2枚組/重量盤

サウンドトラック『大脱走』
1963年録音レストア版
CD(左) 米・Varèse Sarabande
完全版35トラック/90分20秒+63年リリース版13曲/32:34秒 3枚組2枚組
CD(右) 米・Intarda
完全版42トラック/90分20秒(時間は同上)
LP(後) 米・Doxy Cinematic
完全版42トラック/90分20秒 2枚組/重量盤

 

「人生観を変えた大きな出来事がふたつある。ひとつはUCLA在籍中にアーサー・ヘイリーからジャーナリズムを学んだこと。もうひとつは『大脱走』のアシスタント・ディレクターとして、ジョン・スタージェスのもとで学んだことだ。私の作品の登場人物にはあの映画の遺伝子が宿っている」(映画監督ジョン・フリン/『ローリング・サンダー』『ロックアップ』)


大脱走
THE GREAT ESCAPE

1963年 アメリカ
監督:ジョン・スタージェス
出演:スティーヴ・マックイーン、ジェームズ・ガーナー、リチャード・アッテンボロー、ジェームズ・コバーン

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