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デ・パルマ ─ ショットbyショット 〜『アンタッチャブル』

今回は9月3日(土)午前6時からスタートする、『厳選’80~あの頃あの人と観た、あの一本~』にラインナップされるブライアン・デ・パルマ監督作『アンタッチャブル』(87)に注目したい。今さら申すまでもないが、禁酒法時代のシカゴを舞台にした『アンタッチャブル』は、(実在したギャングのボス)アル・カポネに戦いを挑んだ男たちの姿を描いたクライム・アクションの傑作である。

 

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「テレビ版(59〜63)のファンではなかったし、単なるリメイクにするのも御免だった。この企画でもっとも興味を憶えたのは、伝統的なアメリカン・ヒーローにまつわるスケールの大きな映画を作ることだった」(アート・リンソン/プロデューサー)

 

「リンソンの思い描くヒーロー像を構築するのは、思いのほか大変な作業になったよ。テレビ版は素晴らしいドラマだが、映画に使えるものは何もなかった。だからこれまでのエリオット・ネス像をすべてリセットしたのさ」(デヴィッド・マメット/脚本)

 

ニューヨークのインディーズ・シーンから飛び出したデ・パルマ。「ヒッチコックのエピゴーネン(模倣者)」と揶揄もされたが、映像の力を前面に押し出してすべてを語り尽くそうという作家的姿勢に高い評価が寄せられていたのは事実だ。優れた脚本があれば当代随一の演出を魅せる映像作家。これは業界関係者が認めるところであったが、『アンタッチャブル』は創立75周年を記念してパラマウントが力を入れた大作であり、その命運を「ヒッチコック直系のサスペンス監督」の手に委ねることは、パラマウントにとってもデ・パルマにとっても大きな賭けであった。しかし蓋を開ければ映画は大成功を収め、デ・パルマにメジャー作家への転機が訪れたのである。

 

「『ボディ・ダブル』(84)の完成後、サスペンス・スリラーから離れたいと思っていた。飽きがきていたんだよ。だからマメットの脚本を読んで、これは特別な映画になるゾと思って即決した。観客が心から声援を送る主人公の映画なんて、これまで手掛けたことがなかったからね」(ブライアン・デ・パルマ)

 

「ギャングに対する一般大衆の平均的なイメージを集大成したというより、多数の映画で培われた過去へのイマジネーションが拡大され、新たな活気を与えることに成功した重厚かつ格調高い映画」(ポーリン・ケイル/映画評論家)

 

もはや語り尽くされた感のあるデ・パルマ作品だが、まだまだ未知の映画の発見があるのも事実だ。ここでは有名なシカゴ・ユニオン・ステーションでの銃撃戦を取り上げてみるが、同シークエンスはセルゲイ・M・エイゼンシュテイン監督作『戦艦ポチョムキン』(25)から材を得た通好みの名場面である。泣く子も黙るソビエト映画史上屈指の古典『戦艦ポチョムキン』は、映像作家に多大な影響を与え続けているソビエト表現主義映画だ。同時に共産主義革命を賛美する目的で製作された、極めつきのプロパガンダ映画でもある。だがモンタージュ技法など先駆的な映像テクニックを世に送り出した作品として、いまも不動の地位を保っている。

 

モンタージュ(Montage)。仏語で「集める」という意味のMonterから来た造語で、「結合」「組み立て」を意味し、ヨーロッパでは「フィルム編集」「編集技術」を指す(※1)。造語の主はフランスの映画批評家/理論家レオン・ムーシナックで、モンタージュとは「映画にリズムを与えること」と唱えている。

 

(※1) アメリカでは、素早く切り替わるカット編集を施された映像で動くシークエンスを指す場合が多い。時間の推移や出来事の経過の暗示を内包し、しばしばディゾルブや多重露光もモンタージュ手法に含まれる。

 

ここで忘れてはならないのは、映画の父D・W・グリフィス(デヴィッド・ワーク・グリフィス)監督作『イントレランス』(16)の存在である。『イントレランス』はテマティック・モンタージュを探究した最初のフィクション映画であり、20年代のソビエト・モンタージュ派の台頭を促すことになり、彼らは自分たちのモンタージュ理論の基盤とした。テマティック・モンタージュとは、それぞれ別次元のショットが一緒に繋ぎあわされて、リアリティーという意味では連続性がないが、象徴的な意味での関連性を生み出す編集法のことである。

 

『戦艦ポチョムキン』はその完成形のひとつであるが、グリフィスが示したハリウッド型編集法とは性格を異にするものであった。ハリウッド型編集法では、ショットごと(ショットby ショット)の移行を円滑に行い、編集の痕跡を可能なかぎり隠すことが重要なテクニックとなる。ところがソビエト・モンタージュ派は作為性の隠匿よりも、ショットby ショットの関係性がいかなる効果を生み出すか、これが彼らの最大の関心事であった。そのためには観客の混乱も厭わず、実験的で斬新な編集語法を積極的に取り入れた。

 

「編集は生物の細胞の成長と変わらない。ひとつひとつのショットは発育中の細胞であり、カット(編集)はふたつに分かれる細胞分裂を意味する」(エイゼンシュテイン)

 

「撮影を始める前から、スクリーンになにが現れるかを正確に把握している。編集室で驚くことなどほとんどない。あとはフィルムの断片をつなぎ、編集で詰めてテンポを創り出すだけだ。あちこちに(顔や体の)クローズアップを入れるのは、映画の中の人物に観客が感じる、体の距離感というものが非常に重要になるからだ」(ヒッチコック)

 

前述したように、映画のクライマックスとなるシカゴ・ユニオン・ステーションでの銃撃戦は、『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段シーンにオマージュを捧げたものだ。しかしデ・パルマはオマージュとだけではとても片付けられない、精緻な視覚的構想をトータル9分45秒、総数215ショットに盛り込んでいる。そしてあらためてシークエンスを探究すると、ソビエト・モンタージュ派とヒッチコックの編集手法の驚くべき融合(※2)が見えてくる。

 

(※2) 実際のところヒッチコック作品の大半は、モンタージュ編集を基軸としたものである。たとえば『めまい』はその好例であるが、モンタージュ編集の合間を縫うように、特定の視点の存在を強調するようなショットが挿入される。

 

「映画はフィルムの断片でストーリーを語るというのがヒッチコックの考え方だが、私はそれに少しでも近づこうとしているだけだ。監督になる前は編集者だったが、初めは演出より編集の方が上手かったと思う。それもあってフィルムの断片をどう繋ぎ合せるかについては、強固な編集者的考えを持っている。自分の映画が無頓着な編集者の手元にあるなんて許せない。時にはすべてを違ったものに見せてしまう。だから私は撮影の段階から、ただ視覚的構想を持つだけにしているんだ。撮影が終われば編集者の仕事がほとんど残っていないようにね」(デ・パルマ)

 

それでは最後に、シカゴ・ユニオン・ステーションでの銃撃戦215ショット、これを詳細に分析したビデオ(映像作家アントニオ・パパントニウ監修)をご覧いただくことにしよう。ここでは「時間」との整合性に特別な注意が払われていることに注目されたい。「列車の到着時刻」までの前半にみる、エリオット・ネス=ケヴィン・コスナーの「待機する時間」(ネスの緊張の高まりを演出)との編集による整合性は驚くべきものがある。そして215ショットの流れ、テンポの中でもっとも重要な軸点となるのが、ネスの主観ショット(POV=Point of View Shot)の扱い方であることも忘れてはならない。

 

この主観ショットを中心に9分45秒の流れが完結しているわけだが、ビデオをご覧いただく上で注意点として以下の6つのポイントも挙げておきたい。

 

①ショットの長さ

編集によるテンポを演出する。

 

②ショット・サイズ

・ワイド(ロング=観客の視野とほぼ同じくらいの空間と距離を持つ)

・ミディアム(人物の膝もしくは腰から上が画面を占める距離)

・クローズアップ(人や被写体の細部が見える視点/俳優のクローズアップは、通常その頭部だけに視点を絞られる)など。

 

③アングル(被写体に対するカメラの角度)

・ロー(被写体を下から見上げた角度)

・ハイ(被写体を上から見下ろした角度)

・アイライン(アイレベル=床面から150~180cm程度の高さ/人物の目の高さ)

・斜角(ティルト=canted=斜めの角度)

 

④カメラの動き

・フィックス=静止

・パン(カメラ位置を動かさず、本体を左右水平方向に動かす/中近距離からが効果的/人物間の因果関係を維持したり、一貫性を強調する)

・ドリー(台車=ドリーにカメラを載せて撮影/心理的啓示を強調する使用が一般的)

・トラッキング(台車をレール=トラックに載せて撮影/始点と最終点の動きの感覚を捉えるための視点ショットにおいて、もっとも有効な手法/サスペンス性を高める)

・ハンディ(ハンドヘルド=カメラを手持ちで撮影/ドリーより叙情性を欠く/柔軟性とスピードの向上)

・クレーン(クレーン装置を使用/基本は空中ショット/本作ではヒッチコックの『汚名』の手法も取り入れられている)

 

⑤レンズ

・望遠レンズ(telephoto=長い焦点距離のレンズ/副次的な作用として、遠近感を失くして画像を平坦にみせる役割を果たす=距離感の平面化)

・広角レンズ(wide-angle=焦点距離は短いが広い角度の視野を持つ/副次的な効果として、遠近感を際立たせる作用がある/登場人物の優位性や力強さ、暴力的な行動を強調する効果)

複数の人物の行動・心理、さらには複数の対象から構成される状況全体に同時に注意を向けることができるようになる。

・アナモフィック/画面分割ジオプターレンズ(遠近両用のハーフ&ハーフ/焦点を画面一方の間近な前景と、もう一方の後景に合わすことが可能)

 

⑥アクション(①~⑤に関係する動き/右からか、左からか/カメラに向かってくるのか、遠ざかるのか/動きがどのように起こったか/どのように暗示され、共鳴していくか/動きの形式がどのように効果的に、その内容を伝えているか)

 

『アンタッチャブル』は一級品の映画だ。しかしこの映像分析を知ることで、映画の世界がさらなる広がりを見せることだろう。それでは、ごゆるりとご覧あれ。

 

「アイビーリーグを卒業したがごとき堅物のエリオット・ネス像を書き上げた。純情さと生真面目さと精神力がうまく絡み合った男なんだ。そんなネスをもっともよく表現したのが、ユニオン・ステーションでの場面だと思う。あれはブライアンの功績さ」(マメット)

 

シカゴ・ユニオン・ステーションでの銃撃戦は、当初は列車内でのアクションから続くものであった。しかし当時の列車を制作して撮影する予算はなく(昨今のCG時代ならあり得たが)、ユニオン・ステーションだけのシーンに縮小された。しかし幸か不幸か、それがこの215ショットを生み出したのである。ちなみに当初の脚本に対するデ・パルマの強い思いは、後年『カリートの道』(93)のクライマックス(グランド・セントラル・ステーションへ向かう追撃戦)で実現することとなる。

 

「自分の経験を振り返り、なにが得意でなにが不得意か理解しなくてはいけない。私の映画を観たことがある人は、私がなにが得意でなにが不得意かわかるだろう。そして『アンタッチャブル』がひとつの転機であることに気づくだろう。この映画はとても意識してストーリーを伝えよう、観客を登場人物に巻き込もうと、まさしく映画的な様式で仕事するための新たな挑戦だったんだよ」(デ・パルマ)

 

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アンタッチャブル
The Untouchables

1987年 アメリカ
監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:ケヴィン・コスナー、ショーン・コネリー、アンディ・ガルシア、ロバート・デ・ニーロ

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