吹替偉人伝

ドランク・モンキー 酔拳[吹替版]
金曜よる11時頃

実力派声優による名吹替がよみがえる。 初めて観た吹替洋画は何だったろう。あの頃、吹替の名優がスターを作り上げ、映画の楽しみを教えてくれた。吹替の偉人たちに敬意を込めて、吹替の名画をお届けします。

『ドランク・モンキー 酔拳[吹替版]』ほか

7月の放送作品


>>7月は「吹替偉人伝まつり」をお送りします。

吹替マニアのおじさんによるコラム
至宝の偉人・羽佐間道夫、遂に降臨!!
『ロッキー[吹替版]』から『ロッキー・ザ・ファイナル[吹替版]』までシリーズ6作品の羽佐間=ロッキー吹替版を、2夜連続で放送!

シルヴェスター・スタローンといえばささきいさお(佐々木功)のイメージが強いが、スタローンの最大の出世作である『ロッキー』シリーズは、一貫して羽佐間道夫が吹き替えてきた。(注:シリーズ後期の作品には、ささきいさおがスタローンを吹き替えたバージョンも存在している)
羽佐間=ロッキーの名吹替を6/29(木)、6/30(金)の2夜連続でお楽しみいただきつつ、羽佐間のナレーションによるオリジナル特別番組、『ロッキー』シリーズの名場面とそれを彩る音楽たちを紹介する「名曲で振り返る『ロッキー』」も合わせてお楽しみいただきたい。

黎明期から現在まで、不変のパワーで息長く活躍し続ける羽佐間道夫は、文字通り現役最強の偉人であり、吹替界の奇跡である。本来、あまりクセのないソフトなバリトンと、自然で落ち着いた語り口が持ち味の羽佐間だが、吹替の芸域は驚くほど広い。初期の代表作、シナトラ一家の酔いどれプレイボーイ、ディーン・マーティンではダンディにセクシーに、『5つの銅貨』『ホワイト・クリスマス』などで有名な歌って踊れる伝説のエンターテイナー、ダニー・ケイでは軽妙に、『ピンクパンサー』シリーズほかのピーター・セラーズ、スティーヴ・マーティン、『裸の銃(ガン)を持つ男』シリーズほかのレスリー・ニールセンといったコメディ系では変幻自在に抱腹絶倒のボケをかます。特にピーター・セラーズの『ピンクパンサー』では、原版でクルーゾー警部が喋るフランス訛りの英語を、独特のモッサリしたテンポと奇妙なイントネーション、それに微妙な言い違いやダジャレを交えて羽佐間流にアレンジし、えもいわれぬ不思議なおかしさを醸し出した。その延長線上で羽佐間は、駄洒落やアドリブっぽいギャグを散りばめて原版を超越した、日本語吹替版オリジナルの「笑い」に挑戦することが多々ある。早口でまくしたてアドリブ調のセリフを矢継ぎ早にブチ込む広川太一郎の「広川節」とは異なり、普通のトーンで喋っている中に時折さりげなくネタを仕込んでくる羽佐間の手法は、耳にした半秒後ぐらいにジワッと我々の笑いのツボを刺激してくるという、大人の遊び心に満ちた、かなりクセになる極上のエンターテイメントだった。
そんな羽佐間は、吹替偉人としての本流・二枚目系スターについても、ガッツリきっちりカバーしてきた。専任もしくは準専任級だけでも、ロイ・シャイダー、マイケル・ケイン、ポール・ニューマン、ハリソン・フォード、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ジョージ・シーガル、ロック・ハドソン、ヨーロッパ系ではマルチェロ・マストロヤンニ、ジャン=ポール・ベルモンド、マクシミリアン・シェル…と、無敵のラインナップである。ちなみにシルヴェスター・スタローンについては、今回放送の『ロッキー』全作およびスピンオフ最新作『クリード チャンプを継ぐ男』、それに初期の主演作数本を吹き替えてはいるが、専任という意味では『ランボー』シリーズで定着したささきいさお(佐々木功)にバトンタッチした形になっている。そして、衰えを知らぬ偉人・羽佐間は近年も、チャーリー・チャップリン無声映画コレクション(新録日本語版)でのチャップリンの声や語り手、『ホビット』シリーズのガンダルフ役イアン・マッケラン、『テッド』シリーズのサム・J・ジョーンズなどで変わらぬ活躍ぶりを示し、現役の中堅・若手たちを圧倒する。
TVシリーズでも草創期から大活躍。『ローハイド』のピート役シェブ・ウーリー、『コンバット』のカービー役ジャック・ホーガン、『謎の円盤UFO』のフォスター大佐役マイケル・ビリングトン、『保安官ニコルス』のジェームズ・ガーナー、『俺がハマーだ!』のデヴィッド・ラッシュ、『マクロード警部』のデニス・ウィーヴァー、『特攻野郎Aチーム』ジョージ・ペパードなど数多い。
ナレーションの名手でもあり、報道・情報バラエティー系番組中心に、落ち着きと安心感そして説得力ある名ナレーションを長年にわたって披露してきた。現在も、日本テレビ『news every.』の特集コーナー、「永谷園」のTVCMなどなど、その名調子は健在である。
さすがにアニメは寡作ながら、映画『がんばれ!! タブチくん!!』シリーズの、広岡達朗をモチーフにした超シュールな傑作キャラクター・ヒロオカは、羽佐間の名演技をもって原作を超え、我々の記憶に深く刻まれたと筆者は今でも思っている。

かつて地上波が、日々のゴールデンタイムで日本語に吹き替えられた洋画や海外のTVドラマシリーズを放送してくれていたあの頃、「このスターは、この声優じゃなくちゃ」とか「幾つかのバージョンがあるけど、やっぱりこの人の声が一番好き」といった楽しみ方を、我々は当たり前にしていた。主演級のスターを吹き替える声優たちは、「声のスター」などともてはやされ、アイドルのごとき人気を誇った。やがて「二ヶ国語放送」で言語が選べるようになると、「声優」の主戦場はアニメへとシフトしていく。そして、時代の流れと共に地上波の海外ドラマ・洋画放送枠は徐々に減少、「吹替」の存在意義もパッケージや配信ビジネスを中心としたものに変わっていく…。
羽佐間道夫と共に「吹替」の黄金期を駆け抜けた同朋たちのほとんどが、残念ながら、すでにこの世にはいない。それでも、古き良き時代の貴重な生き証人として、残り少ない現役偉人のトップランナーとして、後進たちに檄を飛ばすかのように今なお走り続ける、吹替界の至宝・羽佐間道夫。
「吹替」のニーズも変わり、オンリーワンの「声のスター」が生まれにくくなっている現在、吹替の「達人」は多けれど、いずれ「偉人」となり得る者が、一体何人いるだろうか?
「吹替」という文化を正しく後世に伝え、「偉人」としてのDNAを末永く維持・継承していくためにも、「羽佐間道夫よ、永遠なれ!」と、心からの敬意を込めて、叫び続けたい。


(以上、敬称略)


文=イマジカBS所属・吹替マニアのおじさん

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8月の放送作品

  • 霊幻道士 [吹替版]
    吹替偉人伝:青野武
    舞台出演ののち声優の仕事をはじめ、そのキャリアは45年以上にもなった声優界の偉人。「ちびまる子ちゃん」の二代目友蔵おじいちゃんや、ピッコロ大魔王などアニメで多数の代表作を持ち、洋画の吹替えでは『バック・トゥ・ザフ・ューチャー』シリーズをはじめとするクリストファー・ロイドやマイケル・ペイリン、ジョー・ペシの声を多く務める。『霊幻道士』シリーズでは“道士役は青野以外いない”とファンに言わしめるほど、その吹替えが愛された。

    8月4日(金)深夜0:15~

    霊幻道士 [吹替版]

    1985年 香港
    監督:リッキー・リュウ
    出演:ラム・チェンイン(青野武)/ムーン・リー(佐々木るん)

    サモ・ハン・キンポー総指揮で中国の代表的な妖怪キョンシーと妖怪退治のエキスパート霊幻道士の死闘を描く。大ブームとなったクンフー・ホラー。青野武による吹替版。

  • 霊幻道士2/キョンシーの息子たち! [吹替版]
    吹替偉人伝:青野武

    8月4日(金)深夜2:00~

    霊幻道士2/キョンシーの息子たち! [吹替版]

    1986年 香港
    監督:リッキー・リュウ
    出演:ラム・チェンイン(青野武)/ムーン・リー(佐々木るん)

    99年の眠りから覚めたキョンシーの一家が捲き起こす大騒動。ベビー・キョンシーが大人気となった、大人気クンフー・ホラーの第2弾。青野武による吹替版。

  • 霊幻道士3/キョンシーの七不思議 [吹替版]
    吹替偉人伝:青野武

    8月11日(金)23:15~

    霊幻道士3/キョンシーの七不思議 [吹替版]

    1987年 香港
    監督:リッキー・リュウ
    出演:ラム・チェンイン(青野武)/リチャード・ウン(石井敏郎)

    キョンシーと霊幻道士との闘いを描くクンフー・ホラーの大人気シリーズ第3弾。半人前の道士がキョンシー兄弟と共に巻き起こした大騒動の顛末を描く。青野武による吹替版。

  • 霊幻道士・完結編/最後の霊戦 [吹替版]
    吹替偉人伝:青野武

    8月11日(金)深夜1:00~

    霊幻道士・完結編/最後の霊戦 [吹替版]

    1988年 香港
    監督:リッキー・リュウ
    出演:アンソニー・チェン(青野武)/ウー・マ(増岡弘)

    東洋の摩訶不思議な妖怪を描き、キョンシー・ホラーという新しいジャンルを打ち出した、“霊幻道士”シリーズの第4作。サモ・ハン・キンポー製作。青野武による吹替版。

  • ドクター・モローの島 [吹替版]
    吹替偉人伝:小林勝彦
    大映の俳優として数多くの映画、ドラマに出演し、悪役を得意とした。その一方アニメ、吹替えの声優業もこなし、テレビの洋画劇場を支える一人として活躍した。

    8月18日(金)23:10~

    ドクター・モローの島 [吹替版]

    1977年 アメリカ
    監督:ドン・テイラー
    出演:バート・ランカスター(小林勝彦)/マイケル・ヨーク(堀勝之祐)

    ある熱帯の孤島で繰り広げられるマッド・サイエンティストの世界を描くSF作品。監督はドン・テイラー、原作はH・G・ウェルズ『モロー博士の島』。小林勝彦による吹替版。

  • ジョン・カーペンターの要塞警察 [吹替版]
    吹替偉人伝:樋浦勉
    40年以上のキャリアを持ち、俳優と声優、両方で活躍するマルチプレーヤー。吹替えではジョン・マルコビッチ、ロバート・デ・ニーロなどの声をあて、特に『ダイ・ハード」シリーズでは一貫してブルース・ウィリスの声をあて、代表作となっている。

    8月25日(金)23:30~

    ジョン・カーペンターの要塞警察 [吹替版]

    1976年 アメリカ
    監督:ジョン・カーペンター
    出演:オースティン・ストーカー(樋浦勉)/ダーウィン・ジョストン(青野武)

    襲撃を受けて孤立した警察署を舞台に、協力せざるを得なくなった警察官と犯罪者が極限状況下で繰り広げるサバイバル・アクション。樋浦勉による吹替版。

吹替え解体新書

香港映画が得意とするカンフーコメディに、“キョンシー”という中国古来のモンスターを融合させた『霊幻道士』。キョンシーを退治する主人公の道士(ラム・チェンイン)の声をアテたのは、青野武である。「宇宙戦艦ヤマト」の真田志郎、モンティ・パイソンのマイケル・ペイリンを始め、多くの洋画・海外ドラマ・アニメで実績を残す吹替の偉人だ。コミカルもシリアスも上手い青野だが、『霊幻道士』シリーズでは、その両面を器用に使いこなす。やわらかい声質で堅物の道士を真面目に演じながら、ちょっと面白いことを言うタイミングが堂に入っており、観客は自然とそのユーモラスな世界へと入り込んでいく。

脇役に「うる星やつら」の諸星あたるを担当した古川登志夫や、「Dr.スランプ アラレちゃん」のアラレを担当した小山茉美など、当時アニメで活躍していた人気声優が集められている点も注目だ。アニメの吹替えでは絵のキャラに負けないよう、声や演技が強めになる。ベタな笑いの多い香港コメディでは、アクの強い香港俳優の演技に負けることなく笑いを取るために、アニメ並みの強い声や演技を作ったほうが良い場合もある。そういった意図のもとに、『霊幻道士』シリーズではアニメでも活躍する声優が意図的に揃えられたと思われる。また、視聴者の誰もがアニメで知っている声優を配役したことで、『霊幻道士』のお茶の間での人気が後押しされたとも言えるだろう。
可愛らしいベビー・キョンシーが活躍する『霊幻道士2/キョンシーの息子たち!』では、ユン・ピョウ=古谷徹が登場。『プロジェクトA』や『スパルタンX』などのジャッキー・チェン作品への出演で日本でもお茶の間のスターとなっていたユン・ピョウだが、数々の作品で彼の声を担当してきた古谷が、本作でもきっちり起用されているのが嬉しい。
『霊幻道士3/キョンシーの七不思議』では、居丈高だが実は気の小さい保安隊長(ビリー・ラウ)を玄田哲章が担当。アーノルド・シュワルツェネッガーをアテるようになって間もない玄田の若き日のコメディ演技を楽しむことができる。
そして、シリーズの中でも特にコメディ色を強く押し出した『霊幻道士・完結篇/最後の霊戦』。ラム・チェンインからアンソニー・チェンに役者は変わったが、日本語吹替えでは変わらず青野武が道士(吹替えキャラクター名は、ゴクウ道士!)を担当。過去の3作品とは全く異なり、完全にコミカルに振り切った演技を聴かせてくれる。その他、サモ・ハン・キンポーの声でお馴染みの水島裕を弟子役(吹替えキャラクター名、ポテト)、「それいけ!アンパンマン」のジャムおじさんで知られる増岡弘をライバルの和尚役(吹替えキャラクター名、あんぱん和尚!)に据えた本作は、ギャグ満載のナンセンスコメディとして、大爆笑できる吹替えに仕上げられている。
『霊幻道士』シリーズは、遊び心に溢れ、柔軟に面白い吹替えを作ろうとしていた“あの頃の香港コメディ”を代表する必聴作だ。


文=Siringo


Siringo【プロフィール】
幼少期よりTVで多くの洋画を鑑賞し吹替の魅力にとりつかれる。'02年より株式会社フィールドワークスでソフト制作業務を担当。独自の吹替探索ルートにより、失われた吹替版を多数復刻。「吹替偉人伝」シリーズにも協力。現在までに関わった吹替収録ソフト、放送用の吹替版素材は100作品を超える。

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